4から7本の足をヘリコプターの羽根のごとく器用に動かし、pH1から2という強酸性の胃のなかで自由気ままに生きている菌。あなたの胃の粘膜を棲み家にしているかもしれません。彼らの名前はヘリコバクター・ピロリ、俗名ピロリ菌です。アルカリ性の防護服を胃のなかの尿素と酵素から作り出して、自分の周りだけ中和してしまうほどの知能犯。とても厄介者です。
というのは、ピロリ菌が、胃炎、さらに胃潰瘍、果ては胃がんまでの原因として知られているからです。胃潰瘍患者の約5割からピロリ菌が見つかっているほか、ピロリ菌の保菌者は、菌を持たない人に比べて約5倍も胃がんになりやすく、世界保健機構(WHO)がピロリ菌を胃がんの原因と認定したほどです。
長期にわたって症状はないものの、実は損傷は進んでいく……。このピロリ菌の活動をシロアリのようなもの、と例えた研究者(David Y. Graham氏)もいます。
さて、このピロリ菌はどこからやってくるのでしょうか。それは、おもに口からと言われています。ピロリ菌をもった人からの口移しの行為、たとえば離乳食の口移しやディープキス、あるいは上下水道の整備が遅れている飲用水に潜む場合もあるようです。日本の場合、戦後の衛生環境が悪い時代を経験した人に、その保菌率は高く出ています。
胃潰瘍と診断された人はともかく、食べ過ぎや飲み過ぎをしていないのに胃の痛みが出ている人は、怪しいです。ピロリ菌が徘徊しているかもしれません。
ピロリ菌に感染してしまい、胃潰瘍を起こした人の胃のなかを除菌するには、薬物治療(プロトンポンプ阻害剤と抗菌剤による併用療法。保険適応)が有効です。でも、ピロリ菌から胃を守るのであれば、健康飲用水として検証されているクランベリージュースも有用です*1。家の新築・増改築のまっさらな状態に、シロアリを寄せつけないための液体を塗付するようなもので、まさしくシロアリ駆除と同じ考え方です。
赤色ポリフェノール成分「プロアントシアニジン」と黄色フラボノイド成分を含むクランベリージュースは、強い抗菌作用を示し、胃壁へのピロリ菌付着を防御します*2。
将来にわたって、自分でカラダを守っていく方法を身につけましょう。定期的な健康診断や人間ドックの受診は大切です。普段から胃に不安を覚える人にはクランベリージュースを飲み続けること(適量飲む+毎日続けること)をおすすめします。このクランベリージュース単独の適量については、一日あたり200ml から300mlで充分であるといわれています。
回を重ねて第5回、最近のクランベリージュースの人気の秘密は、赤い飲用水というファッション性によるものだけでないことにお気づきでしょうか。シリーズ第5回は、「胃の痛み」から考える、クランベリーに秘められた抗ピロリ菌作用についてお話しました。
■注意事項
〇ピロリ菌感染と診断された方は、医師(消化器専門医)の指示に従い、適切な治療を受けてください。
〇クランベリーを含む他の健康食品の一部は、抗凝固剤ワーファリンの効果を増強させる可能性が報告されています。ワーファリンを服用している方は、クランベリージュース飲用について医師にご相談ください。
■参考文献
*1 Lian Zhang, et al., Efficacy of Cranberry Juice on Helicobacter pylori Infection: a Double-Blind, Randomized Placebo-Controlled Trial. Helicobacter, 2005; 10 (2): 139-145
*2 Burger, O. et al., Inhibition of Helicobacter pylori adhesion to human gastric mucus by a highmolecular-weight constituent of cranberry juice. Sci Nutre, 2002; 42(3): 273-284
3 Marshall BJ., Helicobacter pylori. Am J Gastroenterol. 1994; 89: 116-128
■関連図表
● ピロリ菌の国別/年代別の感染率
先進国では感染率が低く、上下水道の普及が遅れている国は全般的に感染率が高い。
日本においては、年齢が高いほど感染率が高い傾向にある。
日本人の約半数にのぼる約6000万人がピロリ菌保菌者と推定される。
[出典 David Y. Graham より改変]